ヴォリュームの解釈

Xに《ミロのヴィーナス》の造形性に関する解釈を投稿したところ、それにご関心を向けてくださった方がいらっしゃいましたので、より詳しくここに記したいと思います。
まず、この像を構成する各マッスの中心は、S字曲線によって貫かれています。
次に胸から上に焦点を当てると、胸、首、頭蓋骨、顔面頭蓋の4つのマッスによって構成されており、首、頭蓋骨、顔面頭蓋の3つのマッスは、両耳の穴の奥で結合されています。
これら3つのマッスにも、その芯を結ぶ曲線の流れが存在します。
[図1]
さて、90 度回ると重なりかつ左右対称である八角形は、安定しているように見えます。
多くの仏像のフォルムは、このような八角形を底面とする八角柱に支えられています。
一方、90度回ると重なるが左右非対称である八角形には、回転の動きが感じられます。
[図2]
私はこの現象を、《ミロのヴィーナス》に教えられました。
この像の頭部は、上からは、時計の反対方向に回っているように見えます。
また、前方からも、時計の反対方向の回転が感じられます。
[図3]
このように《ミロのヴィーナス》には、各マッスを貫くS字曲線の流れや、回転を感じさせる流れ、すなわちムーブマンが存在します。
これらのムーブマンは、目鼻口などマッスの表面の凹凸を歪めたり、移動させたりします。これがデフォルメです。
さらに、これらのムーブマンは、マッスに留まらず、その周りの空間に渦巻き状の動きを与えます。これがヴォリュームです。
ちなみに、ヴォリューム(volume)は元々「巻かれたもの」を意味しており、メルロ=ポンティはそれを奥行と述べています。
もちろん、私は、互いに直交する 3軸から構成されるデカルト座標によって物体と空間の大きさや位置を認識しています。
とはいえ、制作においては、それよりもむしろ空間を渦巻き状の流れとして把握しようと努めています。
《ミロのヴィーナス》は、そうした空間の流れの生成の法則に気づかせてくれました。
そして、その法則に従って実現した最初の作が《僧》です。
《僧》は、いわば《ミロのヴィーナス》の造形性の翻訳なのです。
[図4]